NEWS & TOPICS

World en Ponte楽天市場店

地震復興のシンボルとなった、
黒トリュフ・チョコレート。

 ローマからおよそ110キロ。鈍行電車とバスを乗り継いで、ウンブリア州ペルージャ県の街、ノルチャへ。およそ4900人が暮らしている山あいの街は、高品質な黒トリュフやプロシュートの産地として、世界的に認知されている地域でもあります。 食通を魅了する豊かな食文化はもちろん、ベネディクト修道会の創設者であるベネディクトゥスの聖地として知られる雄大な歴史的資産、絵画のようなレンズマメの花畑をはじめとする観光資産など。ノルチャへの訪問理由はたくさんありますが、今回は特別な目的がありました。
 ノルチャは、2016年に甚大な被害をもたらした「イタリア中部地震」の被災地です。古代から大地震に悩まされてきた地域でもあります。アペニン山脈の活断層に起因し、8月24日にマグニチュード6.2の地震が発生。300人近くが命を落としました。さらに2ヶ月後の10月26日に マグニチュード5を超える地震が2度発生。10月30日には、マグニチュード6.6の地震が発生し、人々の心の拠り所である聖ベネディクト教会が崩壊。その揺れは、遠くローマをも揺るがす規模でした。
 地震からおよそ2年半が経過した2月、私たちを迎えてくれたのは、特産の黒トリュフを使ったチョコレートメーカー ‘Vetusta Nursia’(ラテン語で、古きノルチャという意味)を営む、アリアンナさん。未だ復興が進んでいない厳しい現実を耳にし、何かできることがないものかと訪れたのです。
 チョコレート工場へと向かう道には、居住不可能な地域や仮設住宅が目立ちます。チャーミングな笑顔が魅力の彼女ですが、瞳の奥には悲しみが宿ります。10月30日の地震で、家族の思い出がつまったチョコレート工場も、自宅も倒壊したのです。
 「あの日、私と従業員は、ただ呆然と立ちすくんでいました。だけど、父は違った。もう一度やり直せばいいって」
‘Vetusta Nursia’は、1985年、アリアンナさんの父であるガブリエレさんが創業した、歴史あるチョコレートメーカーです。ガブリエレさんは、いち早く黒トリュフを使ったチョコレートを開発するなど、およそ350種類もの商品を生み出したアイデアマン。一流スーパー・小売店を取引先に持つ、 業界屈指の人気メーカーです。
 2016年以降、‘Vetusta Nursia’をさらに有名にしたのは、‘震災のショックから一番早く立ち直った会社’、という事実でした。家族や仲間の応援で、わずか被災4日後となる11月3日には、大型クレーンを持ち込み、自力で復興作業を開始。12月中旬には作業を終えて、 翌年1月に再オープンを飾ったのです。しかし、やっとチョコレート工場が以前の姿を取り戻そうとした時、震災の心労もあったのか、頼りにしていた両親が他界。深い悲しみがアリアンナに襲いかかります。
 「チョコレートを食べると、みんな幸せな顔になるでしょう。近隣のこどもたちは、チョコレート工場の見学を、とても楽しみにしているの。私は、従業員の人生だって預かっている。泣いてはいられないわ」
 残念ながら、私たちが訪問した当時、国からの復興資金は彼女の手に届いていませんでした。チョコレート工場に併設されたショップの壁には、アリアンナさんと従業員を見守るかのように、愛する両親と古きノルチャの姿が飾られています。

紀元前5世紀からはじまるノルチャ。10月30日の地震によって、聖ベネディクト教会と城壁が倒壊。避難を余儀なくされています。

トリュフ祭りの準備がはじまる中心地には、ペルージャで活躍した中田英寿選手の活躍が掲げられていました。不思議と、日本との縁を感じます。

イースター準備の真っ最中。カラフルな卵や動物型のチョコレートが並びます。

チョコレートに手作業で描かれたデザインは、まさにアート。食べるのがもったいないほど。

column

黒トリュフ入りチョコレートボックス 150g

https://www.rakuten.co.jp/worldenponte/

ノルチャの特産黒トリュフがまるごと入っている、‘Vetusta Nursia’の一番人気のチョコレートは、クセになる美味しさ。ある日、黒トリュフのそばにチョコレートバーを偶然置いていたら、 贅沢な香りがチョコレートに染み込んでいるのをガブリエレさんが発見。すぐに開発を重ね、あっという間に人気製品へ。日本のみなさんへ、ノルチャから愛情をこめてお届けします。

写真と文

今野智子 Tomoko Konno


フード、デザイン分野を得意とする、イタリア・ミラノ在住のビジネス・デザイン・コンサルタント、クリエイティブディレクター、編集。欧州における日本支援をテーマに、物作り視点を基軸にしたビジネス構築を手がけています。